バイブル・エッセイ(1105)弱い人に寄り添う神

弱い人に寄り添う神

「天の国は次のようにたとえられる。ある家の主人が、ぶどう園で働く労働者を雇うために、夜明けに出かけて行った。主人は、一日につき一デナリオンの約束で、労働者をぶどう園に送った。また、九時ごろ行ってみると、何もしないで広場に立っている人々がいたので、『あなたたちもぶどう園に行きなさい。ふさわしい賃金を払ってやろう』と言った。それで、その人たちは出かけて行った。主人は、十二時ごろと三時ごろにまた出て行き、同じようにした。五時ごろにも行ってみると、ほかの人々が立っていたので、『なぜ、何もしないで一日中ここに立っているのか』と尋ねると、彼らは、『だれも雇ってくれないのです』と言った。主人は彼らに、『あなたたちもぶどう園に行きなさい』と言った。夕方になって、ぶどう園の主人は監督に、『労働者たちを呼んで、最後に来た者から始めて、最初に来た者まで順に賃金を払ってやりなさい』と言った。そこで、五時ごろに雇われた人たちが来て、一デナリオンずつ受け取った。最初に雇われた人たちが来て、もっと多くもらえるだろうと思っていた。しかし、彼らも一デナリオンずつであった。それで、受け取ると、主人に不平を言った。『最後に来たこの連中は、一時間しか働きませんでした。まる一日、暑い中を辛抱して働いたわたしたちと、この連中とを同じ扱いにするとは。』主人はその一人に答えた。『友よ、あなたに不当なことはしていない。あなたはわたしと一デナリオンの約束をしたではないか。自分の分を受け取って帰りなさい。わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか。』このように、後にいる者が先になり、先にいる者が後になる。」(マタイ20:1-16)

 暑い中を1日働いたのに、1時間しか働いていない連中と同じ賃金なんてひどいと苦情をいう人たちに、雇い主の主人は、「わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか」と答えました。この言葉だけ聞くと、どうもきまぐれで、不公平といわれても仕方がないような感じがします。主人はいったい、どんな気持ちだったのでしょう。
 日雇い労働者の支援のために働いている神父さんが、あるとき、彼らのためのミサの中でこの箇所を読んだそうです。すると、当然のごとく、「なんてひどい奴だ。働いたぶんだけ払うべきだ」という苦情の声が上がりました。神父さんはちょっと困りましたが、彼らにこういったそうです。「夕方まで雇ってもらえなかった人たちのことを考えてみなさい。彼らにだって生活があるし、家族だって待ってるかもしれない。だから、この主人は夕方に雇った人たちにも1日分の賃金を与えたんじゃないかな。」この説明を聞くと、これまで苦情をいっていた人たちの態度が一気に変わり、「それはいい主人だ。自分も雇ってもらえないことがあるから、そんな主人がいてくれればうれしい」ということになったそうです。
 この話を理解するための大きなポイントは、最後の部分ではなく、実は、最後まで雇われなかった人たちと主人の間に交わされた会話、主人が「『なぜ、何もしないで一日中ここに立っているのか』と尋ねると、彼らは、『だれも雇ってくれないのです』」と答えたという部分にあるとわたしは思います。なぜ雇ってもらえなかったのか、その理由は書かれていませんが、もしかすると他の労働者たちよりも歳をとっていたからかもしれません。病気から快復したばかりで弱っていたり、食べ物がなくてやせ細っていたりというようなことも考えられます。そのような人たちが、「だれも雇ってくれないのです」というのを聞いたとき、この主人は、きっと「今日も1日働けず、食べ物を買えないなら、この人たちはますます弱ってしまうだろう。家族だってお腹を空かせているかもしれない」と思い、放って置けなくなった。だから、1日の終わりに、他の労働者たちから苦情が出るのを承知で、彼らにも1日分の賃金を払った。そんな風に想像することができます。
 キリストが教えてくださる神は、いつも弱い人たちのことを優先に考える方、人々の苦しみに、しっかり寄り添う愛の神です。もしこの話を読んで、「こんなの不公平だ」と思ったとすれば、それはわたしたちに弱い人たちに寄り添う気持ちが欠けているからかもしれません。「だれも雇ってくれなかったのです」といったときの労働者の気持ちを想像し、その気持ちにしっかり寄り添った神さまの愛をしっかり心に刻み、わたしたちも、弱い立場に置かれた人たちに共感できる心を持てるよう祈りましょう。

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