バイブル・エッセイ(1106)考え直す

考え直す

「あなたたちはどう思うか。ある人に息子が二人いたが、彼は兄のところへ行き、『子よ、今日、ぶどう園へ行って働きなさい』と言った。兄は『いやです』と答えたが、後で考え直して出かけた。弟のところへも行って、同じことを言うと、弟は『お父さん、承知しました』と答えたが、出かけなかった。この二人のうち、どちらが父親の望みどおりにしたか。」彼らが「兄の方です」と言うと、イエスは言われた。「はっきり言っておく。徴税人や娼婦たちの方が、あなたたちより先に神の国に入るだろう。なぜなら、ヨハネが来て義の道を示したのに、あなたたちは彼を信ぜず、徴税人や娼婦たちは信じたからだ。あなたたちはそれを見ても、後で考え直して彼を信じようとしなかった。」(マタイ21:28-32)

 自分たちの方が正しいといって聞かない祭司長や長老たちに、イエスは「考え直して」畑に出かけた兄のたとえ話をします。この兄は、初めは「いやです」といっても、後でよく考え直して行動を変えた。あなたたちも、「考え直して」神の道に立ち返りなさいということでしょう。
 「考え直す」ということが今日の話のキーワードだといっていいと思いますが、それは祭司長や長老たちにとってなかなか難しいことだったでしょう。なぜなら、彼らは、自分たちの方が正しいと確信していたからです。「律法の素人が、何を偉そうなことをいうか」と思って、意地になっていた可能性もあります。イエスが何をいっても聞く耳を持たず、かえってイエスをどうやって言い負かしてやろうかということばかり考えている。それでは、「考え直す」ことなどできるはずがありません。
 自分の方が正しいという思いこみを捨てること。それが、「考え直す」ための第一歩だといっていいでしょう。相手が自分より若くても、まずは謙虚な心で相手の話に耳を傾ける。このことについては自分の方がよく知っていると思っても、「自分の知識も完璧ではない」と思って、相手のいうことをよく聞き、確かめる。意地になって相手を言い負かそうとしない。それが、「考え直す」ための第一歩なのです。
 考え直してぶどう園に出かけた兄の話に戻れば、「考え直す」ための次のステップが分かるでしょう。兄にもきっと、言い分があったに違いありませんが、ともかく兄は父親の言葉に耳を傾け、考え直しました。それはきっと、父親のことを思ったからでしょう。たとえば、「弟は口先ばかりで、働くのはいつも自分だ。こんなのは割に合わない。今日こそはさぼってやる」と思っても、畑に出て一人で働いている父親のことを思えば、家でごろごろしているのは申し訳ない。そのような思いが、兄の心を変えたのです。「考え直す」ための第二のステップ。それは、自分のことばかり思うのをやめ、相手のことを思うことだといっていいでしょう。意地を捨て、相手の気持ちになって考える。それが、わたしたちの行動を変えていくのです。
 「へりくだって、互いに相手を自分よりも優れた者と考え、めいめい自分のことだけでなく、他人のことにも注意を払いなさい」とパウロが語っていますが、これこそまさに「考え直す」ために必要なことです。まずは、相手の方がもしかしたら優れているかもしれないと思って相手に敬意を払い、相手の話に耳を傾ける。そして、相手の事情もよく考えて振舞う。それが、わたしたちの行動を変えていくのです。
 神父というのも、祭司長や長老のような態度をとってしまいがちな人間といっていいでしょう。ですから、わたしはこの話を、まず自分自身への戒めとして聞きました。わたしの話を聞いている途中で、耳が痛いと思った方もいるでしょう。頑なな心を捨て、「考え直す」ことができる柔軟な心。謙虚な心を持って生きられるよう、心を合わせてお祈りしましょう。

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