フォト・エッセイ(99) 里山エコツアー⑤ 琵琶湖の植物


 エコツアーが終わった後、自転車で琵琶湖沿いの道を走った。ところどころに水辺で遊ぶことができるような公園が設けられていたので、何箇所かで止まって琵琶湖を眺めた。真上にある空は晴れ渡っていたが、琵琶湖の北側の山々に黒い雲がかかっていて、ときどき風で飛ばされた雨が降りつけてくるような天気だった。
 水鳥が水面すれすれを飛んでいるのを見ていたとき、鳥たちの背後に不思議な色が現れ始めた。しばらく見ていると、その色は赤や黄色、紫、緑などに分かれていった。湖面に吹きつける雨に反射して虹が現れたのだった。しだいに真ん中がせりあがってきて、虹の形が整っていった。よく見ると、上空にも薄い虹がかかって二重の虹になっていた。午前中のツアーだけでも十分心を満たされていたのに、こんなすばらしいおまけまでもらって申し訳ないような気がした。
 虹のかかった水面を眺めながら、もう一つ思い出したことがある。それは、もう20年も前に亡くなった祖父のことだ。祖父は畑を耕す百姓だったのだが、毎朝、漁師のように元荒川に釣りに行っていた。釣り方も本格的で、リール竿や太い磯竿を20本くらい出してひたすら大物のコイを狙うという釣り方だった。コイや大きなフナが釣れると、持って帰って庭の池に放し、泥を吐かせてから煮物にしたり焼いて保存食にしたりしていた。そんなわけで、祖父の家の池にはいつでも大きなコイが何十匹も泳いでいた。
 わたしが釣りを始めたのは、この祖父の影響によるところが大きい。小学校低学年のときから、祖父のオートバイの後ろを小さな自転車で追いかけて元荒川まで行っていた記憶がある。無口な人であまり話しをした覚えはないが、自然と共に生きるとはどういうことかを無言のうちに教えてくれた人だった。三五郎さんとも、どこか似ているところがあったかもしれない。昔は、そんな大人がたくさんいたように思う。
 彼らがいなくなった後、日本の自然はいったいどうなってしまうのだろう。今のうちに彼らから学べるだけのことを学んでおく必要があると思う。針江地区のエコツアーは、そのためにとても貴重な機会を提供してくれている。







※写真の解説…1枚目、ノウルシの花。新旭町の琵琶湖畔に群生している。2枚目、芽吹き始めたヨシ原。3枚目、ヨシ原に係留された漁船。4枚目、土手一面に生えたつくし。