フォト・エッセイ(109) 摩耶山から逢山峡へ②


 青谷道を登って摩耶山の山頂、掬星台に近づくと何かピンク色のものが見えてきた。なんだろうと思いながら近づくと、満開の八重桜だった。標高690mの摩耶山の山頂と下界では、季節に2、3週間のずれがあるようだ。下で咲いていた時には、枝垂桜やソメイヨシノの美しさに圧倒された直後だったのでそれほど注意を払わなかったのだが、改めて見るとなかなか見ごたえのある花だ。
 六甲山はとても花が多い山だと思う。東京にいたころ、奥多摩秩父の山々にたびたび出かけて写真を撮っていたが、これほどたくさんの花を目にした覚えがない。ちょっと前まではヤブツバキが山道のいたるところで咲いていたが、今はその代わりにミツバツツジが咲いている。ヤマブキやフジ、アセビなどもあちこちに咲いている。もう少しすると、山頂や森林植物園でアジサイが満開になるだろう。
 山頂から、アゴニー坂を下って穂高湖に出た。お昼近くになっていたので、そこでお弁当のおにぎりを食べた。穂高湖の湖畔の木々は、毎週着実に彩りを変えている。湖畔の景色は言葉でも、写真でさえも表現しつくすことができないほどの美しさだ。さまざまな思い煩いから解放されて、しばらくその美しさに身も心も委ねて時を過ごした。全身の力が抜け、まばゆい初夏の日差しの中で時間と空間の感覚さえもしだいにぼやけていくようだった。
 名残りはつきなかったが、また1週間後に来るのだからと言い聞かせながら再び歩き出した。サウス・ロード、シュラインロードを経て、明るいうちに唐櫃に下りなければならない。







※写真の解説…1枚目、野生のフジ。摩耶山天上寺跡にて。2枚目、摩耶山山頂の八重桜。3枚目、ヤマブキ。穂高湖湖畔にて。4枚目、新緑の穂高湖畔。