フォト・エッセイ(110) 摩耶山から逢山峡へ③


 穂高湖から、ミツバツツジがあちこちに咲き乱れるサウスロード、シュラインロードを通って逢山峡に出た。2月に歩いたとき、ここはまた新緑の頃に来たら絶対にきれいだろうなと思ったが、その予想は外れていなかった。むしろ、想像以上の美しさだったと言っていい。
 まず、峡谷の上流部にある、砂防ダムがせきとめてできた堆積土の広場がすばらしかった。どうもきれいそうな景色が木々の間から見え隠れしていたので、横道に入ってしばらく行ったらその広場に出た。たまたま見つけたのだが、その広場はまるで初夏の日光、戦場ヶ原を思わせるような美しさだった。開けた湿地の中を流れる美しい水の流れの両側に、鮮やかな緑色に輝く灌木が点在していたのだ。あらためて六甲山の底知れなさを見せつけられた感じがした。
 その場所からしばらくは谷底に川が流れているのが見えるだけで水に近付くことはできなかったのだが、20分ほど歩くと川のせせらぎがすぐ近くに迫ってきた。人が入ったような跡があったので、そこから川べりまで降りてみた。すると、新緑の中に太陽を浴びて光り輝く小さな滝があった。滝つぼに近付いてふと下流の方を見たとき、思わず息を飲んだ。そこには、鮮やかな緑色の葉をつけた木々の間を清く澄んだ渓流が流れていた。流れの先の方には、新緑のグラデーションで飾られた遠くの山肌も見えた。わたしは、思わずその場で荷物を下ろし、カメラも置いて座り込んでしまった。これほどまでの美しさを、まったく予想もしていなかった。
 滝から上がる水しぶきが頬にあたって心地いい。渓流から涼しい風も吹き上げてくる。滝から流れ落ちる水の音にまじって、小鳥たちのさえずりも聞こえてきた。自然と肩の力が抜け、心の中に淀んだすべてのものが風に吹き飛ばされていくような気がした。こんな場所では、もう無条件に神様に感謝する以外ない。こんな場所を独占してしまって、申し訳ないという感じさえした。
 こんな美しい山の麓に住めて、わたしは本当に幸せだ。







※写真の解説…逢山峡にて。渓谷、滝、新緑。