フォト・エッセイ(118) 大原三千院③


 バスでの集合時間まで自由に散策していいということだったので、三千院の境内をしばらく見て回った後、近くの棚田に足を延ばした。去年行ったときに見つけたのだが、三千院に向かう参道から少し入ったところにかなり大きな棚田があり、そこから里山としての大原の景色を見ることができる。空いた時間を使って、そこを訪ねたのだ。
 田植え直後の棚田は、満々と水を湛えて美しかった。近くの山の峰にかかった雲が、その美しさに幻想的な雰囲気を添えていた。棚田のあぜ道から大原の里を見渡すと、ここが単に寺院で有名な観光地ではなく、大原女による行商で知られる農作物の産地でもあることがよくわかる。狭い山の谷間のあちこちに田んぼやシソの畑が広がり、ところどころに民家が固まって集落を作っているのが見えた。
 ふと足元を見ると、田んぼの中で何かがたくさん動いている。オタマジャクシかなとも思ったが、それにしては大きい。なんだろうと思ってよく見ると、なんとイモリの群れだった。これだけたくさんのイモリを田んぼで見たのは生まれて初めてだ。きっと水がきれいで、餌になる虫がたくさんいるのだろう。イモリたちが泳いだり歩いたりする様子を感動して見つめているうちに、パスの集合時間になってしまった。
 帰りのバスの中で、もう一つ大きな恵みが与えられた。これまでに見たこともないほどの大きな虹だ。バスが大阪に入ったあたりから空が明るくなり始め、まだ雨を落としている雲の間から太陽が現れ始めたので、もしかしたら出るかなとは思っていた。だが、まさかあれほど大きな虹が出るとは予想していなかった。神戸にさしかかったあたりでかかり始めた虹は、わずかの間に色を濃くし、はっきりした輪郭をとっていった。いつの間にか、その虹の外側にもう1本さらに大きな虹が出ていた。端から端まで欠けることのない見事な二重の虹だった。
 パスの中では、あちこちから歓声が上がり始めた。みな口々に「こんなにみごとな虹は見たことがない」と言っていた。わたしもまったく同感だった。ここのところインフルエンザ騒ぎで暗い雰囲気に覆われていた大阪と神戸の街に、神様が大きな祝福を与えてくれたようだった。雨の遠足もなかなか悪くないなと、虹を見ながらしみじみ思った。










※写真の解説…1-2枚目、三千院境内にて。2枚目、満開のヤマボウシ。3枚目、シソ畑。大原はシソの産地として有名。4枚目、棚田。5枚目、バスの車窓から見た虹。外側の虹は残念ながら消えた後だった。