カルカッタ報告(18)8月25日Sr.プレマ②


 その貴重な100万円のほかに、信徒の方々から50万円ほどの献金があった。そんな大金を現金で持ってくるわけにはいかないので、1枚の小切手に換えて持って行った。「貧しい人々のために何かをしたい」と願う信徒の皆さんの気持ちの結晶のような1枚の小切手だ。それをお腹に巻いた貴重品入れから丁寧に取り出して、Sr.プレマに手渡した。小切手を持つ手がわずかに震えた。
 お金を手渡したあと、今度はもう一つのお土産を渡すことにした。大きく引き伸ばしたマザーの写真だ。全部で30枚ほど準備していった。それらの写真を1枚1枚見せると、とても喜んで「何枚かの写真は見たことがあります。みんなあなたが撮ったものだったんですね」と言ってくださった。
 それらを手渡し終わると、今度はSr.プレマの方がわたしたちに渡すものがあると言って何かを事務室から持ってきた。たくさんのメダイと、マザーの遺品のついたカードだった。遺品は、マザーの着ていたサリーの一部だとのことだった。「遺品といっても、髪など身体の一部には及びませんけれど」とSr.プレマが言うので、わたしは一つのことを思い出して彼女に尋ねてみた。
 マザーが帰天したあと、Sr.マーガレット・メリーが手紙を送ってくるたびにマザーの遺品を一緒に送ってくれた。マザーの髪の毛や、遺体処理の時に出たマザーの血をしみこませた布など、第1級の遺品ばかりだ。そんな大切な遺品が、わたし1人の手元に1ダースはある。そんなにたくさん持っていていいのか念のために確認したかったのだ。
 わたしがその旨を話すと、Sr.プレマはまたにっこり笑って「それらの遺品は、日本の人々への贈り物だと思って大切に持っていてください」と言ってくださった。これで安心して遺品を保管することができる。もちろん、責任は重大だが。
 最後に、Sr.プレマはわたしに祝福を願った。「そんな、わたしが総会長様に祝福だなんて」とわたしが驚いて言うと、「新司祭の祝福には特別の恵みがあるから」とわたしの前で頭を下げている。覚悟を決めて祝福することにした。
 「総会長として4000人の修道女たちを導くための恵みが与えられますように」というようなことを言って祝福をし終えた途端、Sr.プレマはすくっと頭を上げて「5000人」と言った。「神の愛の宣教者会」の修道女の数は、わたしがカルカッタにいた15年前は4000人だったが、今はなんと5000人にまで増えていたのだ。そのことに気づいたわたしがすぐに「じゃあ、残りの1000人分はあとで追加して祈ります」と言うと、Sr.プレマはまたうれしそうに笑っていた。本当に愉快なシスターだ。こんな人が総会長ならば、「神の愛の宣教者会」は当分のあいだ大丈夫だと安心した。
 Sr.プレマが事務室の中に去ったあと、わたしたちは献金の領収書をもらうためしばらく事務室の前にいた。すると、そんなわたしたちの姿を見つけたSr.ガートルードが聖堂の前でわたしたちを手招きしている。行ってみると「せっかくだから、聖堂にあるマザーの像と一緒に写真を撮っていきなさい」とのことだった。
 マザー・ハウスの中には今、2体大きなマザーの像が置かれている。1つはマザーの墓がある部屋の入口に置かれたブロンズの立像で、その周りでは写真を撮ることが許可されている。もう1つは2階の聖堂の、マザーがいつも座っていた場所に置かれたマザーの座像だ。聖堂内での写真撮影は厳禁されているのでふつうは記念写真も撮れないのだが、Sr.ガートルードはそれを許可してくれたのだ。彼女の細やかな心遣いに、メンバー一同心を動かされた。その言葉に甘えてマザーの座像と一緒に写真を撮り、わたしたちは一度ホテルに戻ることにした。時刻はもう夕方5時になろうとしていた。
※写真の解説…Sr.プレマに祝福しているところ。撮影、柾木久和さん。