カルカッタ報告(19)8月25日聖体賛美式

《お知らせ》今回のカルカッタ体験学習についての記事が、今日発売の「カトリック新聞10月4日号」に掲載されました。どうぞご覧ください。

 ホテルに帰って小一時間ほど休憩したあと、6時すぎ、聖体賛美式に参加するためマザー・ハウスに戻った。今回、わたしたちが宿泊した「サーキュラー・ホテル」は、マザー・ハウスまで徒歩3分ほどのところにあるので行き来がとても便利だ。カルカッタの基準からするとやや高いが、この便利さを考えれば1泊4,000円というのはそれほど悪くない値段だと思う。イスラム教徒のオーナーも、しっかりした人物で信頼できる。
 15年前もそうだったが、マザー・ハウスでは毎夕、聖体賛美式が行われている。昔は毎日、夕方6時からだったが、今は曜日によって6時ないし6時半からやっているとのことだった。あわただしい活動の1日の最後を、シスターたちは聖体賛美式で締めくくるのだ。
 マザーが活動を開始した当初、聖体賛美式を毎日する習慣はなかったという。ところが会の活動がしだいに拡大し、日々の生活が多忙を極め始めたときにマザーはあえて毎日、夕方に1時間の聖体賛美式をするようになったという。すると、疲れて活力を失いつつあったシスターたちが、目に見えて元気になったそうだ。彼女たちの活力の源がどこにあるのかを教えてくれる、興味深い逸話だと思う。
 マザー・ハウス2階の聖堂に入ると、ちょうど聖体賛美式が始まるところだった。ヨーロッパ人の若い司祭が御聖体を顕示台に納めて、祈りの時間が始まった。昔は毎日、御聖体の前でロザリオを一緒に唱えていたのでロザリオをするのかなと思って待っていたが、何も始まらずに沈黙が続いた。どうやら、今は沈黙で祈る日もあるらしい。
 沈黙でコンクリートの床に座っていると、15年前とまったく同じ床の冷たさを通して昔の記憶が次々とよみがえってくる。あれから15年もの年月が過ぎたというのが、まったく信じられないくらいだ。だが、確かに15年は過ぎている。わたしは23歳の青年ではなく、38歳の司祭なのだ。今日1日のことを思い出して、そのことをしみじみ不思議に思った。
 日本では司祭だからといって特別扱いされることなどほとんどないが、ここに来て以来、会うシスター会うシスターがわたしに祝福してくれと頼む。心をこめて祝福するたびに、自分が司祭になったのだということを実感した。特に、Sr.プレマに祝福したときはそうだった。かつて、わたしはマザーと会うたびに頭を下げて祝福してもらっていた。それが、今やわたしがマザーの後継者であるSr.プレマを祝福している。神様のなさることは本当に不思議だと思う。
 今日は、朝から本当に懐かしい再会の連続だった。沈黙の中でそのことも感謝した。Sr.プリシラ、Sr.シャンティ、Sr.クリスティー、Sr.アンドレアそれにSr.ガートルード。みな15年分歳をとってはいたが、わたしのことをはっきりと覚えていてくれた。わたしのことを彼女たちに語り、再会のおぜん立てをしながら、ひと足早く天国に行ってしまったSr.マーガレット・メリーにも心から感謝した。
 それから、今度はマザーにとりなしを願って祈った。聖堂の中にマザーの姿はもうなかったが、マザーがいつも座っていた場所に置かれた像を通して、マザーがいつもはだしで歩いていたコンクリートの床の冷たさを通して、マザーの存在をはっきりと感じた。本当に、懐かしくて懐かしくて仕方がない。わたしがこれからも司祭として生きていくことができるように、マザーのとりなしを願わずにいられなかった。
 そんな風に考えたり祈ったりしているうちに、あっという間に1時間が過ぎてしまった。司祭が顕示台から御聖体を聖櫃に戻し、歌と祈りの中で聖体賛美式が終わった。
 マザー・ハウスの入口あたりでメンバーたちと落ち合い、感想を聞いてみた。わたしのグループのメンバーの多くにとって聖体賛美式は生まれて初めての体験だったようで、みな参加できたことを喜んではいた。だが、聖堂の騒々しさには閉口したとみな口々に言っていた。マザー・ハウスの聖堂はA.J.C.ボースロードに直に面しており、窓も開け放たれているので、道路の騒音がもろに入ってくる。走っているほとんどすべての車が絶えずクラクションを鳴らしているし、大声で叫ぶ人の声や動物の鳴き声なども聞こえてくるから、もう大変だ。排気ガスもどんどん入り込んでくる。朝のミサのときは、まだ早い時間なのでそれほどでもないが、夕方6時過ぎのA.J.C.ボースロードの騒々しさはちょっとやそっとではない。一体、こんな騒音の中でシスターたちはどうやって集中しているのかと、真剣に考え込んでいる人もいた。
 わたしにとっては昔懐かしい騒音で、気にならないどころか愛おしささえ感じたのだが、うちのメンバーたちはどうやら祈りどころではなかったらしい。ちょっと対策を考えないといけないかもしれない。
※写真の解説…カルカッタの雑踏。