やぎぃの日記(108)福島はいま8〜二本松農園1


福島はいま8〜二本松農園(1)
 福島での最終日、柳沼さんの案内で二本松市郊外にある大規模な農園、二本松農園を訪ねた。この農園の経営者、齋藤登さんが、風評被害によって大きな打撃を受けている福島の農家から農作物を引き受け、東京や全国に向けて販売活動を展開していると聞いたからだ。
 齋藤さんは今から2年前、50歳のときそれまで勤めていた県庁を退職し、家業である農園の跡を継いだ。県庁では観光課に所属し、広報誌、テレビCM、インターネットなどを通して福島県のPR活動に当っていたという。齋藤さんが農業を始めると、近隣の後継者難に悩む70代、80代のお百姓さんたちが齋藤さんに自分の畑を無償で託すようになり、農園はどんどん大きくなっていった。
 その人たちのためにもどんどん野菜を作って全国に売ろうと準備していた矢先に3月11日がやって来た。原発事故の影響によって、野菜はまったくと言っていいくらい売れなくなってしまった。当初は、齋藤さんも放射能の影響を懸念してあきらめかけたが、事故後に福島県が行った農作物の放射能検査の結果を見て驚いた。土壌は放射能によって汚染されているのに、その土地からとれた農作物からはほとんど放射能が検出されなかったからだ。そこで、齋藤さんは農作物が売れないのは、放射能に対する過剰な心配や偏見に基づく「風評被害」だと考え、それに負けないための販売活動を展開していくことにした。県の観光課にいてもともとPR活動の専門家である齋藤さんの努力は全国の注目を浴び、齋藤さんを頼って野菜の販売を依頼してくる県内の農家も増えていった。現在、27件の農家が齋藤さんと提携し、齋藤さんは手数料などを一切取らずに農作物の販売の手伝いをしている。
 二本松農園を訪れることになったとき、わたしも最初に考えたのは農作物の安全性のことだった。よく「風評被害」と言うが、たとえ微量であったとしても、もし本当に農作物に放射能が含まれているならば消費者が買わないのはもっともなことだろう。二本松市は土壌汚染の程度が周囲と比べてだいぶ高い地域だけに、どうしてもそのことが気になった。しかし、確かに齋藤さんの言う通り、県が公表している検査結果では放射能がまったく検出されていない。その場で最新のデータを見せてもらったが、二本松産のきゅうり、なす、トマトなどの欄にはすべてND(Not Detected・非検出)の文字が並んでいた。 
《二本松農園のHP》 http://www.farm-n.jp/
《最新の放射能検査結果を公表する「福島新発売」のHP》 http://www.new-fukushima.jp/index.html
※写真の解説…広大な農園を見渡しながら、福島の農家の現状について説明する齋藤登さん。