やぎぃの日記(113)負けるな紀伊半島2〜加藤さんの話し


負けるな紀伊半島2〜加藤さんの話し
 午後から紀宝町で床上浸水の被害を受けた信者さんをお訪ねし、台風当日の状況やいま困っていることについて話をうかがった。この地に46年住んでおられるという、加藤茂さん(85歳)の話から紹介したい。
 9月4日の午前2時半頃、熊野川から溢れだした水が床上まで浸水してきた。身の危険を感じた加藤さんは、すさまじい暴風雨と轟く雷鳴の中、近所の高台に住む信徒仲間の家に避難することにした。家財道具を運び出すゆとりは到底なかったので、家庭祭壇に飾ってあった聖母マリア像だけを布にくるみ、手首に巻いて持ち出した。逃げようとしている間にも水位はどんどん上がり、ついには胸まで達したという。周囲は当然停電していたから、辺りは真っ暗闇。加藤さんは、水をかき分けながら手探りで歩いて逃げた。一度つえをとりに戻ったこともあって、600mほど先の信徒仲間の家に着いたときにはすでに1時間半が経過していたという。
 加藤さんは、「これがそのときのマリア様です」と言ってわたしたちに白いマリア像を見せてくれた。「雨に濡れたお蔭で、前よりも真っ白になりました」と笑いながら語る加藤さんの手の中で、その聖母像は神々しい美しさを放っていた。一歩先さえ定かではない暗闇と胸まで達する水の中で85歳の加藤さんが無事に避難できたのは、まるで奇跡のように思える。きっと、聖母の守りがあったに違いない。
 「困っていることはありませんか」と尋ねると、縁側に干してある本の山を指しながら「一番困ったのは、聖書が濡れて頁がくっついてしまったことです」との答えが返ってきた。老眼でも読める字の大きい聖書はなかなか見つからないので、酒井神父さんに新しいのを探してくれるよう頼んだという。
※写真の解説…自宅の玄関先で、被災時の様子を語る加藤茂さん。