やぎぃの日記(137)大船渡から3


3月29日(木)大船渡から3

 大槌ベースから応援の要請があり、今日は大槌漁港で漁師さんたちの手伝いをした。殻の隅に穴を明けられたホタテ貝を、プラスチックの留め具を使ってロープに付けていくという作業だ。一本のロープは15mほどの長さで、それに約150個のホタテ貝をつけていく。ホタテ貝が鈴なりについたロープが出来上がると、漁師さんたちがそれを沖合のいけすに持って行って海に沈める。約半年で、ホタテ貝は2倍ほどの大きさに成長するそうだ。
 大槌は津波で甚大な被害を受けた町だ。町の大部分が跡形もなく消えているし、大槌ベースのすぐ近くには町長さんを初めとする町職員20人が津波に呑まれた町役場の建物が無残な姿を晒している。漁港でも船のほとんどが流され、残った船は5-6隻にすぎないという。大槌の海は、人々の命や財産を非情に奪い去った残酷な海だ。
 しかし、その海はまた命を育み、人々に富をもたらす海でもある。直径7センチほどの貝をわずか半年で倍の大きさに育て、人々に富をもたらしてくれる。それ以外にも、港には様々な種類の魚や海藻が次々と陸揚げされている。出荷されて漁師さんたちの生計を支え、食卓に上って人々の命を支える大切な海の恵みだ。ホタテ貝を黙々とロープに取り付けながら、ふとそんな海と人間の関係の不思議さを思った。
 漁師さんたちと一緒に作業しながら感じたのは、彼らの作業が、無言のうちに場の空気を読みながら絶妙のチームワークで進んでいくということだ。阿吽の呼吸というか、困っている人がいればすぐに黙って助けるし、動かさなければならいなものがあればすぐに必要な人数が手を伸ばす。漁師さんと海の関係も、そのような阿吽の呼吸なのかもしれない。ときに油断して呼吸を読み違えると、大きな痛手を受けることもある。それが津波の被害だとすれば、それで海を恨むにはあたらない。もしかすると漁師さんたちはそんな風に考えているのかもしない。
 明日は、大船渡教会の庭に積み上げられている流木などを片付ける作業を手伝うことになっている。ようやく大船渡のために働くことができる。
※写真の解説…1枚目、街角に積み上げられた車の残骸。背後に見えるのが大槌町役場。2枚目、これから海に育てられるホタテ貝。