祈りの小箱(84)『それぞれに違った使命』


『それぞれに違った使命』
 「努力すればできる。できないのは努力が足りないからだ」という考え方は、ある程度まで正しいでしょう。単純な計算や読み書きなどは、誰でも根気よく努力すればある程度まで同じようにできるからです。ですが、そこから先になると話は違います。誰もが努力すれば数学者になれるか、作家になれるか、音楽家やスポーツ選手になれるかというと、そういうわけではないからです。人間は、それぞれに得手不得手があります。それは、ある意味で当然のことでしょう。なぜなら、人間は、それぞれに違った使命を持ってこの世に生まれてきたからです。
 例えば、わたしがある施設で出会った人の中にこんな人がいました。軽度の知的障害を負った男性です。彼は、いつもにこにこ笑って、子どものように他愛のない話ばかりしていました。道を歩いていれば誰にでも気さくに話しかけ、犬や猫を見るとしゃがみこんで撫でずにいられなくなります。そんな調子なので、彼は他の人のように仕事をてきぱきこなすことはできません。ですが、彼の周りにはいつも楽しい雰囲気がただよっていました。どんなに仕事が忙しく、ピリピリと緊張感がただよっているときでも、彼の笑顔を見るとそれが一瞬にしてとけてしまうのです。彼は、周りの人を楽しく、明るい気分にすることができたのです。きっと、それが神様から彼に与えられた使命だったのでしょう。わたしは彼よりもちょっとだけ仕事をうまくこなすことができましたが、彼のように周りの人たちを楽しく、明るい気分にすることはできませんでした。なので、わたしは彼を心から尊敬していました。
 人はそれぞれに違った使命を持って生まれてきたということを忘れると、わたしたちは自分にできることができない人を見下したり、裁いたりしてしまうかもしれません。わたしにできることがあの人にはできなくても、私にできないことをあの人はできる。そのことを、忘れないようにしたいと思います。
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