祈りの小箱(108)『心で話し、心で聞く人』


『心で話し、心で聞く人』
 人と深く交わり、深く愛し合いたいという願いを、多くの人が持っていると思います。では、どうしたら人と深く交わることができるのでしょう。人と人とのコミュニケーションには、一つの法則があるように思います。それは、心の深みから話す人は、相手の心の深みに言葉を届けることができ、心の深みで話しを聞く人は、相手の心の深みにある言葉を引き出すことができるということです。頭ではなく、心で生きている人こそ、一番深く人と交わることができる人なのです。
 頭で話すとはどういうことでしょう。論理的に納得させ、意表を突き、絶妙のユーモアで笑わせる話は、実は頭で考えられた言葉である可能性があります。心の深みで感じたことではなく、相手を説得したり笑わせたりするために、頭で考えた言葉かもしれないのです。そんな言葉は、相手の頭には届いても、心の深みには届きません。「とてもおもしろい話を聞いたけれど、どんな話だったか覚えていない」ということが起こるのはそのためです。
 それに対して、朴訥とした単調な話しぶりで、おもしろいこともなかったけれど、なぜか心に残って離れない言葉というものもあります。その人の生活の実感がこめられた言葉、頭で考えたのではなく、心の奥深くで感じたことを伝える言葉は、相手の心の同じくらいの深さにまで届くのです。どう評価されるかなど一切考えず、自分の感じたことを感じたままに語る誠実な言葉には、相手の心を揺さぶる力があります。
 頭で聞くとはどういうことでしょう。それは、「これはあの考え方だな」「このような考え方には、こう対応すればいい」などと考えながら聞く態度のことです。心を閉ざしたまま、相手の言葉を頭だけで受け止め、その言葉に頭で返事をしていく。こちらが話し終わるときには、もう教科書通りの答えが出来上がっている。そのような聞き方をされると、言いたいこともそれ以上言えなくなってしまいます。
 それに対して、その人の前に出ると、思ったこと以上のことまで話してしまう。まるで、魔法にかかってしゃべらされているようだ。そんな風に感じることもあります。それは、自分の言葉を、頭ではなく心の深みでしっかり受け止めてくれる人と出会ったときです。どう反応しようかなどと考えず、ただ相手の言葉を相手の言葉としてしっかり受け止める人。相手の言葉を受け止め、心に落したうえで、心の底から感じたことを相手に伝える人。そんな人に出会うと、自分の心の奥底にあった漠然とした思いまで、言葉になって湧き上がってくるから不思議です。
 結局のところ、自分に対しても、相手に対しても誠実に生きている人こそが、一番深く人と交わり、深く愛し合うことができる人なのです。相手からどう思われるかとか、どう反論してやろうかとか、そんなことを考えながら会話するのは時間の無駄です。それは、自分の本心に対しても、相手に対しても不誠実な態度であり、一人で考えごとをしているのと同じだからです。自分に心を開き、相手に心を開いて、ありのままの自分を生きる人、頭ではなく心で生きる人になりたいと思います。
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