『何を求めているのか』
ヨハネは二人の弟子と一緒にいた。そして、歩いておられるイエスを見つめて、「見よ、神の小羊だ」と言った。二人の弟子はそれを聞いて、イエスに従った。イエスは振り返り、彼らが従って来るのを見て、「何を求めているのか」と言われた。彼らが、「ラビ――『先生』という意味――どこに泊まっておられるのですか」と言うと、イエスは、「来なさい。そうすれば分かる」と言われた。そこで、彼らはついて行って、どこにイエスが泊まっておられるかを見た。そしてその日は、イエスのもとに泊まった。午後四時ごろのことである。ヨハネの言葉を聞いて、イエスに従った二人のうちの一人は、シモン・ペトロの兄弟アンデレであった。彼は、まず自分の兄弟シモンに会って、「わたしたちはメシア――『油を注がれた者』という意味――に出会った」と言った。そして、シモンをイエスのところに連れて行った。イエスは彼を見つめて、「あなたはヨハネの子シモンであるが、ケファ――『岩』という意味――と呼ぶことにする」と言われた。(ヨハネ1:35-42)
「何を求めているのか」というイエスの問いに、ヨハネの弟子たちは「どこに泊まっておられるのですか」と答えました。イエスの後をついてきたものの、自分たちが何を求めているのかはっきり分かっていなかったのでしょう。そんな彼らに、イエスは「来なさい。そうすれば分かる」と答えました。「何を求めているのか。」その答えは、イエスと共に過ごせば分かるということです。
この弟子たちと同じように、わたしたちは多くの場合、自分が何を求めているのか分っていません。何を手に入れれば幸せになれるのかが分からないまま、さまざまなものに執着し、深い迷いに陥ってゆくのです。たとえば、物への執着。わたしたちは、財産を蓄え、贅沢な生活をすることで幸せになれると思いこんで、たくさんの物を手に入れようとすることがあります。ですが、大きな家に住み、高級ブランドの服を着て、外車に乗れば幸せになれるのでしょうか。決してそんなことはありません。たくさんの品物で部屋をいっぱいにしたとしても、心は空っぽのままなのです。どんなにたくさんの物を手に入れても、それだけで幸せになることはできないのです。
人間に執着することもあります。家族や友人を大切に思うのはすばらしいことですが、それが執着になってはいけません。家族や友人に執着した人からは、「こんなにわたしが愛しているのに、なぜわたしを愛してくれないの」「どうしてわたしの思った通りに行動してくれないの」という不満が生まれてきます。どれほど親しい家族や友人であったとしても、自分のものにすることはできません。どんなに人間の愛を求めても、それには限界があるのです
物や人間だけではありません。わたしたちは、自分自身の思いにも執着します。自分がしたいことだけをして生きられれば、それが幸せだと思い込んで、自分のしたいことにこだわるのです。ですが、自分のしたいことをしても、わたしたちは決して幸せになれません。たとえばお正月休みのように、お昼まで寝て、ごちそうを食べて、テレビを見てというように、自分のしたいようにする生活には、3日で飽きてしまうのです。わたしたちは、自分がしたいことをしても幸せになれません。わたしたちは、自分のすべきことをしたときにだけ幸せになることができるのです。
物への執着、人間への執着、自分自身への執着に迷わされて、自分の本当の望みが分からなくなっているわたしたちを解放するために神様が与えて下さったのが、清貧、貞潔、従順の三つの誓いです。奉献生活の年である今年、その大切さをもう一度思い出したいと思います。わたしたちを物への執着から解放する清貧、人間への執着から解放する貞潔、自分自身への執着から解放する従順は、修道者だけでなく、すべてのキリスト教徒が目指すべき理想です。それらの執着から解放されることによってのみ、わたしたちは、自分が本当に求めているものを見つけることができるのです。
祈りの中でイエスと共にとどまり、神の愛の温もりに包まれるとき、わたしたちはすべての執着から解放され、自分の本当の望みを知ることができます。わたしたちの本当に望んでいること、それは、どんなときにもわたしたちを無条件に受け入れて下さる神の愛の温もりで包まれることなのです。それさえあれば、他には何もいりません。自分のしたいことだけをしたいという気持ちも消え、神の愛にふさわしく生きたいという気持ちだけが残ります。
「何を求めているのか」と問われて、わたしたちはすぐに答えることができるでしょうか。「何を求めているのか。」その答えは、イエスと共に過ごすことで分かります。「来なさい。そうすればわかる」というイエスの招きにこたえて、イエスと共に、神の愛の温もりの中でときをすごすことができるよう祈りましょう。
★先週のバイブル・エッセイ『愛の中で生まれ変わる』を、音声版でお聞きいただくことができます。どうぞお役立てください。
