バイブル・エッセイ（1155）食べきれないほどのパン - 片柳神父のブログ「道の途中で」

食べきれないほどのパン

　イエスはガリラヤ湖、すなわちティベリアス湖の向こう岸に渡られた。大勢の群衆が後を追った。イエスが病人たちになさったしるしを見たからである。イエスは山に登り、弟子たちと一緒にそこにお座りになった。ユダヤ人の祭りである過越祭が近づいていた。イエスは目を上げ、大勢の群衆が御自分の方へ来るのを見て、フィリポに、「この人たちに食べさせるには、どこでパンを買えばよいだろうか」と言われたが、こう言ったのはフィリポを試みるためであって、御自分では何をしようとしているか知っておられたのである。フィリポは、「めいめいが少しずつ食べるためにも、二百デナリオン分のパンでは足りないでしょう」と答えた。弟子の一人で、シモン・ペトロの兄弟アンデレが、イエスに言った。「ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。」イエスは、「人々を座らせなさい」と言われた。そこには草がたくさん生えていた。男たちはそこに座ったが、その数はおよそ五千人であった。さて、イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えてから、座っている人々に分け与えられた。また、魚も同じようにして、欲しいだけ分け与えられた。人々が満腹したとき、イエスは弟子たちに、「少しも無駄にならないように、残ったパンの屑を集めなさい」と言われた。集めると、人々が五つの大麦パンを食べて、なお残ったパンの屑で、十二の籠がいっぱいになった。そこで、人々はイエスのなさったしるしを見て、「まさにこの人こそ、世に来られる預言者である」と言った。イエスは、人々が来て、自分を王にするために連れて行こうとしているのを知り、ひとりでまた山に退かれた。(ヨハネ6:1-15)

　五つのパンを、イエスが裂いて五千人の人々に配る場面が読まれました。全員が食べて満腹しただけでなく、「なお残ったパンの屑で、十二の籠がいっぱいになった」というのです。「残ったパンの屑」というのは、人々が食べきれずに残したパンと考えていいでしょう。お腹を空かせたわたしたちに、食べきれないほどたくさんのパンを与えてくださる方。それがイエスなのです。
　実際、日々の生活の中で、イエスはわたしたちに食べきれないほどたくさんのパン、生きるための力の恵みを与えてくださいます。たとえば、庭に咲いている花たちを通してわたしたちに与えられる恵み。特にこの教会はそうなのですが、四季を通じてあちこちに花が咲いていて、その一つひとつを見ていたら、とても時間が足りません。一つの花を見るだけでも心が豊かに満たされ、もう満腹してほかの花を見なくてもよくなる。神さまは、たった一輪の花を通してさえ、それほどまでに豊かな恵みを与えてくださるのです。誰にも見られることなく散っていった花たちは、「残ったパンの屑」となって神さまの元に集められます。花たちの美しさは、神さまをたたえる讃美の歌となって天に帰って行く。そう考えてもいいでしょう。神さまの恵みは、少しも無駄になることはないのです。
　神さまはたくさんの恵みをわたしたちに与えてくだいますが、わたしたちが食べようとしない。そんなことも多いように思います。たとえば、誰かからやさしい言葉をかけてもらったのに、「そのくらいは当たり前」と思って感謝しない。親切にしてもらっても、まだまだ足りないといってさらに相手に要求する。そんなとき、わたしたちは、イエスが差し出したパンを食べずに無駄にしているといっていいでしょう。やさしい言葉や親切な行いの中には神さまの愛の恵みが宿っていて、わたしたちを生かすのに十分な力が込められているのですが、その恵みを受け取って食べるためには、感謝の心が必要なのです。
　もし感謝する心があれば、わたしたちは誰かがかけてくれたやさしい言葉の一つだけでも、心を豊かに満たされます。「わたしのことを、こんなにも大事にしてくれる人がいるなんて」と思って感謝する気持ちがある人は、たった一つの言葉からさえ食べきれないほどのパンを受け取り、生きる力で満たされることができるのです。「パンの増やしの奇跡」というと何か突拍子もないことのように思えますが、感謝して受け取る人の心の中で、パンが何百倍、何千倍にも増えるという奇跡は、毎日のように起こっているといっていいでしょう。
　イエスはわたしたちに、食べきれないほどたくさんのパンを与えてくださっています。庭に咲く花の一つ、家族や友だちがかけてくれるやさしい言葉の一つにも、わたしたちが食べきれないほどたくさんの命の恵みが込められているのです。その恵みに気づき、感謝して受け取ることができるよう祈りましょう。

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