バイブル・エッセイ(339)救いは苦しみの向こう側に


救いは苦しみの向こう側に
 ほかにも、二人の犯罪人が、イエスと一緒に死刑にされるために、引かれて行った。「されこうべ」と呼ばれている所に来ると、そこで人々はイエスを十字架につけた。犯罪人も、一人は右に一人は左に、十字架につけた。そのとき、イエスは言われた。「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです。」人々はくじを引いて、イエスの服を分け合った。民衆は立って見つめていた。議員たちも、あざ笑って言った。「他人を救ったのだ。もし神からのメシアで、選ばれた者なら、自分を救うがよい。」兵士たちもイエスに近寄り、酸いぶどう酒を突きつけながら侮辱して、言った。「お前がユダヤ人の王なら、自分を救ってみろ。」イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札も掲げてあった。十字架にかけられていた犯罪人の一人が、イエスをののしった。「お前はメシアではないか。自分自身と我々を救ってみろ。」すると、もう一人の方がたしなめた。「お前は神をも恐れないのか、同じ刑罰を受けているのに。我々は、自分のやったことの報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしていない。」そして、「イエスよ、あなたの御国においでになるときには、わたしを思い出してください」と言った。するとイエスは、「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」と言われた。(ルカ23:32-43)
 今日の福音には、全く対照的な2つの救いの物語が描かれています。イエス・キリストの救いと強盗の救いです。
 イエスは、神の御旨にかなった生き方を貫いた結果、苦しみを受けることになりました。貧しい人々や弱い立場に置かれた人々を虐げ、自分たちの利益を守ろうとする人々の怒りをかったからです。神の御旨のままにすべての人の命の尊厳を守り、愛を貫こうとするとき、その人は地上の勢力から迫害を受けずにいません。ですが、神への愛ゆえに耐え忍ばれた苦しみの向こう側には、必ず救いがあります。エスは、この苦しみを通って天の栄光へと挙げられました。
 イエスとはまったく逆に、強盗たちは神の御旨に背いた生き方をした結果、苦しみを受けることになりました。自分の利益しか考えず、人々の命や財産を奪ったことへの当然の報いとして罰せられることになったのです。ですが、その苦しみの中で一人の強盗は自分の罪深さに気づき、神に救いを求めることができました。この強盗もまた、苦しみを通って天の栄光に挙げられたと言っていいでしょう。
 ここで注目したいのは、2人の強盗の態度の違いです。1人の強盗は、もはや救われることをあきらめ、自暴自棄になってイエスに侮辱の言葉を浴びせます。それに対して、もう1人の強盗は、最期の瞬間まで救われることをあきらめませんでした。最後まで救いをあきらめず、罪を悔いて神の憐みを願ったことによって、彼はイエスと共に一番はじめに天国に入る栄光を与えられたのです。
 エスと悔い改めた強盗は、手を携えて天国に入りました。この2人に共通しているのは、2人とも苦しみを通って救いに入ったということです。どうやらわたしたち人間は、神の御旨に従って生きたとしても、神の御旨に背いて生きたとしても、最後は苦しみを通って天国に入るもののようです。天国は、苦しみの向こう側にこそあるのです。
 この事実は、わたしたちに生きる勇気を与えてくれるように思います。神の御旨のままに貧しい人々を守り、弱い立場に置かれた人々に寄り添おうとするとき、わたしたちは必ず誰かから悪意や嫉妬を受けることになります。貧し人々、弱い立場に置かれた人々の犠牲の上に繁栄を享受している人たちが、神の御旨の実現をゆるさないからです。ですが、どんな迫害を受けたとしても、あきらめてはいけません。イエス御自身、同じような迫害を受ながら、最後まで神の愛を貫いたことで天の国の栄光に挙げられたからです。正しく生きる人の苦しみは、必ず大きな喜びによって報われるのです。
 逆に、誘惑に負けて神の御旨に背き、周りの人々を傷つけたり社会の秩序を乱したりするときにも、わたしたちは苦しみを受けることになります。そのような自己中心的なふるまいは、神によって、社会によって必ず罰せられるからです。ですが、どんなにひどく罰せられ、苦しめられたとしても、最後の瞬間まで救いをあきらめてはいけません。苦しみの中で自分の罪深さに気づき、悔い改める者を、神は必ず天の国の栄光に挙げて下さるからです。悔い改める罪人の苦しみもまた、必ず大きな喜びによって報われるのです。
 人間の救いは苦しみの向こう側にある。その事実は、苦しみの中にあるわたしたちに希望を与えてくれます。どんな苦しみの中にあっても最後まであきらめることなく、救いへの道を歩み続ける勇気と力の恵みを主に願い続けましょう。
※写真…タンポポの花。大阪城公園にて。