ベトナム視察旅行1〜カトリック教会
6月17日から21日まで、イエズス会社会司牧センター「旅路の里」の研修旅行でベトナムのホーチミン市に行ってきました。今、日本のカトリック教会にはベトナム人の司祭、修道者、信徒がどんどん増えてきています。彼らのことをよりよく知り、交わりを深めていくために、彼らの生まれた国を自分たちの目で見ておくことがこの旅の最大の目的でした。まず最初に案内してもらったのは、聖マリア大聖堂。街の中心部にあり、サイゴン大教会とも呼ばれています。
フランス統治下の19世紀末に、パリのノートルダム大聖堂を模して建てられたこの聖堂は、850万人と言われるベトナムのカトリック信徒たちの大きな心の拠り所となっています。日曜日のミサには、この聖堂に入りきれないほどの人たちが集まるとのことでした。ちなみに、ベトナムの総人口は8400万人。人口の約10%がカトリック信徒ということになります。この国の文字は、16世紀にこの国を訪れたイエズス会の宣教師、アレクサンドロが考案したものです。
たくさんのバイクが行き交う街のあちこちで、美しい教会の建物を見かけます。その多くは、フランスの統治下で建設されたものです。
先ほど遠くから見た教会の内部。青いランプが、神秘的な雰囲気を醸し出しています。
聖堂の内部は、美しいステンドグラスとシャンデリアで飾られていました。長い迫害の時代を乗り越えてきたベトナムの教会。聖堂に、信徒たちの祈りが深く染み込んでいます。
たくさんのバイクが行き交う街を抜けて、イエズス会の大神学院に向かいます。それにしても、すさまじい混雑。「この国の交通ルールは主に2つ。ぶつからないことと、ぶつけられないこと」とベトナム人の神父さんが言っていました。確かに、一番大切なルールです。
ホーチミン市の郊外にある、イエズス会大神学院。政府によるカトリック教会への弾圧は今も続いていると聞いていたので、まさかこれほど広大な敷地にこれほど立派な建物があるとは思いませんでした。弾圧が一番過酷だった時代には、信徒たちが「自転車組み立て協会」という団体を組織。この土地をその団体の所有地として登記することで、政府による財産没収を免れたそうです。弾圧が緩やかになった1990年代からは、再び大神学院として利用されるようになりました。
現在、この神学院で76人の神学生たちが勉強しています。別の場所にある修練院には、修練者が35人。イエズス会ベトナム管区には今、197名の会員がいますが、そのうちの半分以上が養成中会員ということになります。会員の平均年齢は37歳。驚異的な若さです。現在、全国9か所の志願院に約100人の志願者がおり、毎年数十人が入会を志願。そのうち、15〜20人が入会を許可されるとのことでした。召し出しは年々増加の一途をたどっているといい、イエズス会ベトナム管区の成長はとどまるところを知りません。
管区長のリェン神父から、管区の歴史について話をうかがいました。1975年のサイゴン陥落前、イエズス会は放送局や図書館を運営し、福音宣教に大きな役割を果たしていたそうです。しかし、現政権下でそれらの施設はすべて没収。今は、かろうじて残されたいくつかの修道院や教会、黙想の家を拠点として福音宣教に取り組んでいるとのことでした。バイブル・エッセイでも紹介したとおり、リェン神父自身、神学生時代に反政府運動の疑いで37ヶ月投獄された体験を持っています。
神学院の壁に飾られた殉教者のステンドグラス。ベトナムには日本と同じく16世紀にキリスト教が伝来しましたが、その後、やはり日本と同じように長い迫害の時代が続きました。250年に及ぶ迫害の中で、11万人が殉教したと言われています。11月24日に記念日が祝われる19世紀の殉教者聖アンデレ・ジュン・ラクと117名の同志のことは、日本でも比較的よく知られているでしょう。ベトナムの教会も、殉教者たちの血の上に建てられた教会なのです。
イエズス会大神学院からさらに郊外に車で30分ほど行ったところにある黙想の家。学校などの施設を持たないイエズス会ベトナム管区は、主に教会司牧と黙想指導によって福音宣教を進めています。昨年は、大学で働く信徒たちとの協働によって全国で1000人の大学生に8日間の『霊操』を授けたと言います。現在、1年間に『霊操』を受ける人の数は、サイゴン陥落前の数十倍とのこと。「大学などの大きな施設を持っていないことが、かえって私たちの強みだ」とリェン神父は話していました。ベトナムの教会の未来に、大きな希望を感じさせる活動です。
黙想の家の庭に置かれた「ラバンの聖母」。18世紀に、政府の迫害を逃れてベトナム中部にあるラバンの山中に逃げ込んだ信徒たちを聖母が癒したという伝説に由来する御像です。この聖母像は、ベトナムの民族衣装であるアオザイを着ています。
黙想の家の庭で、満開を迎えていた赤い花。インドでもよく見かけたように思いますが、残念ながら名前は知りません。情熱的な赤が、殉教者たちの流した血を連想させます。
ホーチミン市郊外にある教会。ベトナムの国旗とバチカンの国旗が、並んではためいているのが印象的です。
教会の庭に並べられた、等身大の十字架の道行。どの教会でも、教会より何倍も大きな、まるで学校のような信徒会館を見かけました。そこで無数の信仰講座や祈りの集い、教会学校などが行われているとのことでした。目立たない形で今も続く、政府によるカトリック信徒への迫害。その中で、教会が信徒たちの大きな心の拠り所となり、生活の中心となっているようでした。