マザー・テレサの言葉を読む(17)魂の目


あなたたちはイエスが愛をこめてあなたたちを見ているのを、自分の魂の目で見たことがありますか。
 「召命とはあなたが存在の深みで受け入れ、生き抜いてゆく神秘です。祈りの親密さの中で、イエスはあなたの目をのぞき込み、あなたの心に話しかけます。」今から14年ほど前、マザー・テレサの後継者、Sr.ニルマラからこんな言葉を教えてもらいました。ヨハネ・パウロ2世が、わたしたち一人一人に神様が与えた使命、すなわち召命について書いた手紙の一節です。
 教皇様の手紙に書かれたとおり、マザーは自分を見つめるイエスの姿を「魂の目」で見ることができたようです。マザーにとってイエスとは、単に本を読んで理解しただけの存在でも想像力の産物でもなく、今まさにここで自分を見つめ、話しかけてくれる人だったのです。祈りの中で、マザーは日々、生きているイエスとの出会いを体験していたのです。
 教皇様の言葉によれば、イエスと出会うためにわたしたちは「存在の深み」でイエスと出会うことができます。「存在の深み」とは、わたしたちの心の奥底にあって、どんなことがあっても決して揺るがない土台となる部分のことでしょう。心の深みにある、最も静かで、自由で、安らかな部分です。心の表面がさまざまな心配や不安、欲望などでどれほどざわついたとしても、わたしたちの心の奥底には確かにそのような部分があります。自分自身の心と向かい合い、その深みにまで降り立っていくこと、そこでイエスと出会うことこそが祈りだと言えるでしょう。
 では、どうしたらその深みにまで降り立つことができるのでしょうか。そのためには、心の表面にあるものにしがみつくのをやめる必要があるでしょう。心配や不安、欲望などにしがみついている限り、わたしたちはそれらによって心の表面を引きずりまわされてしまいます。しがみついた手を離せば、わたしたちは自然に下へと降りていくことができます。一つひとつのことを手放し、神に委ねることによって、わたしたちは少しずつ心の深みへと降りていくことができるのです。
 すべてを委ねきって心の深みにたどりついたとき、そこに生きているイエスがおられます。そこでイエスは、「よく戻ってきた、わたしの友、神の子よ」と言いながらわたしたちの目をのぞき込み、わたしたちを抱きよせて下さるでしょう。