マニラ日記(18)再定住エリアⅡ


 再定住エリアの建設が行われているのと同じ敷地の中に、近隣の山の中に住む原住民、ドゥマガ族の子どもたちのための寄宿舎も設けられていた。
 ドゥマガ族は、この辺りから遠くバギオまで続くルソン島の脊梁山脈、シェラネバダの山中に生活している原住民で、今でも森の中を絶えず移動しながら狩猟採集生活を続けているという。このNGOは、彼らの子どもたちを街の学校に通わせるために無償で寄宿舎を提供してるのだ。
 現在9人の子どもたちが寄宿生活をしながら近隣の公立学校に通っているということだが、残念ながら、わたしたちが訪れたときは休暇を利用してほとんどの子どもが山の中に帰っていた。残っていた2人の子どもたちと話したが、彼らの顔を見てわたしは少し驚いた。10年前にミンダナオ島の奥地で出会った原住民たちと、顔立ちがとても似ていたからだ。特に、鼻の形や顔の輪郭に特徴がある。おそらく彼らの姿こそ、フィリピンと呼ばれるこの群島に住む人々の元々の姿なのだろう。
 何千家族もいるナボタスの住民の中からわずか70家族を郊外に再定住させたところで何になるのか。どうせ元の村に戻って一生読み書きをすることがない子どもたちに読み書きを教えて何になるのか、という批判もありうる。しかし、彼らがしていることは、貧困の闇に覆われたスラム街に輝く小さな希望の灯のようなものだ。ジャングルの闇から逃れたい原住民の若者たちにとっても、密林に射した一筋の光明と言っていいだろう。人々を漆黒の闇の中に置き去りにしないために、この小さな光がいつまでも輝き続けるよう願わずにいられない。
※写真の解説…この施設を運営しているNGOのスタッフたち。2列目の2人の子どもが、ドゥマガ族の子どもたち。