マニラ日記(23)スモーキー・マウンテン再訪Ⅳ〜スカベンジャー


スカベンジャー
 鼻をつくようなゴムの悪臭がただよう広場を後にして、シスターたちはさらに海の方へと進んでいった。まだ最近埋め立てられたばかりの地面にはおびただしいゴミが散らばり、無数のハエが飛んでいた。やがて、海沿いの埋め立て現場が遠くに見えてきた。
 残念なことだが、そこではかつてスモーキー・マウンテンで見た光景が今も繰り返されていた。規模こそ小さいものの、トラックから廃棄される埋め立て用のゴミをたくさんの人たちが懸命に拾っているのは以前とまったく同じだ。この国では、彼らのようにゴミを拾って生きている人たちのことを禿鷹などに例えて「スカベンジャー」と呼んでいる。
 大きな長靴を履いてゴミ拾いの現場に向かう人たちとすれ違いながら進んでいくと、海沿いにたくさんの小屋が見えてきた。さきほどまでの小屋もみすぼらしいものだったが、海沿いの小屋はさらにみすぼらしいものだった。泥まみれの道のあちこちにゴミや汚物が散らばり、すさまじい悪臭を放っていた。もし雨が降れば、これらのゴミや汚物が小屋に流れ込むことは間違いがない。シスターたちの後について小屋の中も見せてもらったが、もちろん中には電気も水道も何もない。いくつかの小屋では、ゴミ拾いをしている夫や子どもたちのために女性たちがかいがいしく食事の準備をしていた。しかし、食事と言っても魚や肉などはまったくない本当に質素な料理だった。
 たくさんの子どもたちとも出会ったが、栄養状態がとても悪いのがすぐにわかった。これまでのスラムの子どもたちのような、はつらつとした目の輝きがない。帰り道、葬儀の場面に出会ったが、亡くなったのは生まれて間もない赤ん坊だった。病院に連れて行くお金もないほどの貧困の中、なすすべもなく見守る母親に抱かれて息を引き取ったのだという。小さな棺を目の前にして、わたしは心の底から神に助けを求めずにいられなかった。
※写真の解説…ゴミ拾いをして生計を立てている人たちの住まい。