マザー・テレサに学ぶキリスト教(13)マリアとは誰か①〜聖書に描かれたマリア

第13回マリアとは誰か①〜聖書に描かれたマリア
Ⅰ.聖書に描かれたマリア
 マザーはいつも、「マリアを通して全てをイエスにお捧げしなさい」と言っていました。マリアの生き方に倣って、イエスに全てを捧げなさいということです。「御心のままになりますように」と言って天使のお告げを受け入れ、神に自分の全てを捧げたマリアの生き方は、わたしたち人間がする神への自己奉献の究極の模範と言えます。
 マザーは、マリアの生き方について、より具体的に次のようにも言っています。
「神は聖母の精神をわたしたちの会の精神として与えてくださいました。『愛をこめた信頼』と『完全な自己放棄』がマリアに天使のお告げを受け入れさせ、『快活さ』が従妹のエリザベトに仕えるために聖母を急いで駆けださせたのです。それこそ、わたしたちの生活でなければなりません。イエスに『はい』と言い、貧しい中でも最も貧しい人々の中にいるイエスのもとに走り寄って仕えるのです。」
 以前に御説明したように「神の愛の宣教者会」の修道者が備えるべき資質は、「愛を込めた信頼」、「完全な自己放棄」、「快活さ」の3つだとマザーは言っていましたが、マリアはそれらを完全に備えたわたしたちの模範だというのです。
 今回と次回の2回を使って、聖母マリアとは私たちキリスト教徒にとってどんな存在なのかを学んでいきたいと思います。
1.旧約聖書に描かれたマリア
(1)創世記3章
・「原福音」に描かれたマリア
 創世記3章15節は、福音を先取りする「原福音」と呼ばれていますが、この箇所に出てくる「女の子孫」にはマリアとマリアの子、イエスが含まれていると考えられます。「彼はお前の頭を砕く」というのは、マリアの子イエスが悪魔の頭を砕くという意味です。
・マリアは、人類を罪にいざなった「最初のエバ」に対して、人類を救いにいざなう「最後のエバ」とも呼ばれます。ちなみにイエスのことを、「最初のアダム」に対して「最後のアダム」と呼ぶ伝統もあります。
(2)イザヤ7:14「インマヌエル預言」
 ここでいう乙女は、ヘブライ語で女を意味するアルマーです。ギリシア語でパルテノイと訳されたときに、処女という意味合いが加わったと言われています。神が人類を愛していることのしるしとして、神に忠実なしもべが現れるということを、この箇所は預言しています。マタイ1:23では、このしもべがイエスと重ね合わせられています。

2.新約聖書に描かれたマリア
(1)マルコ福音書
 マリアへの直接の言及はありませんが、3:31に間接的な言及があります。
(2)マタイ福音書
 ユダヤ人共同体のために書かれた福音書なので、父系を重視し、ヨセフ中心のイエス誕生物語になっており、またイエスの言動を旧約聖書の実現として位置づける傾向がみられます。
ですが、マリアを軽視しているのではないことは、次の箇所から分かります。
①1:20でマリアに起こった出来事を、わざわざ天使が告知している。
②2:11「3博士の礼拝」では、ヨセフが登場せず、イエスとマリアのみが礼拝の対象になっている。
(3)ルカ
 マリアのことを最も詳しく描いている福音書です。以下のようなマリアの描写が見られます。
①受胎告知の場面に現れた、マリアの卓越した信仰。
②エリザベトの挨拶→天使祝詞の原型。「主の母」であるマリアへの賛美。
③マグニフィカトに現れた、ユダヤ人女性としての典型的な信仰。→迫害する者からイスラエルを解放する神。権力者や金持ちによる不正を告発し、社会の秩序を回復する神。自分はそのはしため。
④2:19で、マリアはすべてのことを心に収め、思い巡らす。神体験を軽率に人に語らない。
⑤11:27-28では、イエスはマリアを軽視しているのではなく、マリアの恵みがどこから来るのかを明らかにしている。
(4)ヨハネ福音書
 ヨハネ福音書では、他の福音書に見られないマリアについての記述があります。
①2:1からの「カナの婚宴」で、マリアはイエスの公生活開始に当たって大きな役割を果たした。自分は何も分からない無力な者であることを認め、イエスに全てを委ねた。
②19:26-27でマリアは十字架の傍らに立っていた。イエスによる「教会の母」としてのマリアの宣言。試練を経て、全教会の母となったマリア。他の福音書では、受難の場面にマリアが出てこない。
(5)使徒言行録
 1:14に使徒たちと共に祈るマリアの描写があります。復活したキリストとマリアが出会ったという記述はありませんが、教会の伝統の中でそれは当然のことと見なされています。
(5)パウロの書簡
 パウロの書簡にはマリアについての言及がほとんどなく、かろうじてガラテア4:4で触れている程度です。ですが、パウロもマリアを軽視していたわけではないでしょう。生前のイエスと出会うことなく、復活のキリストとの出会いのみによって信仰に導かれたパウロにとって、イエスの受難と復活による救いが最も大切だったことは言うまでもありません。パウロが生前のイエスと共にいたマリアについて言及することが少ないのは、そのためだと考えられます。
(6)黙示録
 黙示録では、12:1に終末においてイスラエルの12部族を従える女王としてのマリアのイメージが描かれています。

3.ロザリオの祈り
 今月は「ロザリオの聖母」の月なので、ロザリオの祈りについて簡単に説明しておきたいと思います。
(1)祈り方
途中で玄義を黙想する祈り方が一般的です。玄義には、喜び(月・土)、光(木)、苦しみ(火・金)、栄光(日)の四玄義があります。全部唱えると、天使祝詞を203回ほど唱えることになります。玄義の代わりに、誰かのために取り次ぎの祈りを代祷しても構いません。
(2)由来
イスラム教や仏教にも似たような祈りのし方があり、人類共通の祈りの形だと言えます。広い意味で、神秘主義の系譜に属しています。同じ祈りを唱え続けることで忘我の境地に至り、神の恵みに満たされることを目指すからです。道具を使わないが、「主の御名の祈り」も同じ系統に属します。
・呼び名は、13世紀のマリア伝説に由来すると言われています。あるシトー会士が唱えた50回の天使祝詞が、薔薇の花となり聖母の冠となったというのです。天使祝詞の回数は、修道会等によってさまざまなものがあります。
・13世紀初頭、アルビジョア十字軍が最終段階を迎える中で、聖ドミニコがロザリオの祈りを広めたと言われています。ロザリオは、異端と戦うための最高の武器として広まっていきました。
・かつては、50回の天使祝詞を3回唱えることで、詩篇150篇全てを唱えたのと同じ効果があるとも考えられていました。
・10月7日は「ロザリオの聖母」の記念日です。1571年のこの日、教皇、スペイン、ベネツィアによる神聖同盟軍が、オスマントルコを海戦で破ったことがロザリオの祈りの結果であるとされ、この日が「ロザリオの聖母」の記念日とされました。
(3)マザー・テレサとロザリオ
 マリアは、聖ドミニコの夢に現れて次のように語ったと言われます。
「あなたは余りにも異端者たちに対して議論しすぎる。あなたも自分だけの努力で彼らを信仰へ連れ戻そうとしている。人々の心をかちとるには信仰の主な玄義を示す程度にとどめ、あなたのことばに耳を傾ける人々とともに、中途で度々祈るようにせよ。ロザリオをひろめよ。そうすれば罪人は改心に導かれよう。」
 聖母のこの言葉は、マザーの次の言葉と響きあいます。
「人々はこれ以上、祈りについての話を聞きたくありません。実際に、あなたが祈る姿を見たいのです。」
 この言葉の通り、マザーは、いつも外出のときロザリオを手にして祈っていました。マザーは、次のようにも言っています。
「人々は、ロザリオを手にして貧しい人々のところへと急ぐ修道女の姿を見たいのです。」
(4)効果
 ロザリオには、次のような効果があると考えられます。
①心を鎮め、わたしたちの行く手を聖霊の光で照らす。
②聖母のとりなしによって、大きな恵みが与えられる。
 祈ってみれば分かりますが、ロザリオの祈りの効果は絶大です。ロザリオは、わたしたちを絶望の淵から救ってくれる命綱だとさえ言えます。どうぞ、みなさんも試してみてください。